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大阪地方裁判所 平成6年(ワ)3120号 判決

原告 株式会社エアーセル

右代表者代表取締役 藤井誠親

右訴訟代理人弁護士 竹川秀夫

被告 芙蓉商事株式会社

右代表者代表取締役 松本晴次

右訴訟代理人弁護士 中村俊輔

同 板垣善雄

主文

一  被告は、原告に対し、金一〇〇万円及びこれに対する平成六年四月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その九を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金一〇〇〇万円及びこれに対する平成六年四月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、装飾的彫刻を施したガラス板(インテリアガラス)の製造・販売について、希望者と代理店契約を締結し、製造のための機械・材料等を販売し、技術供与を行うことを業とする会社であり、被告も同業者である。

2  原告は、平成三年一月、名古屋市の渡邊正一(以下「渡邊」という。)と前項の代理店契約を締結して業務を行っていたところ、同年一二月、渡邊から販売した機械等についてクレームを付けられるようになり、平成四年三月には詐欺ないし不法行為を理由として売買代金の返還等を求める訴訟を提起された。原告は、訴えには不満であったが、他への信用等を考慮して円満解決の方針をとり、代金の約五割を返還することで早期に和解した。

3  被告は、前項の訴訟後、新規の契約希望者あるいは既に原告の代理店になっている者に対し、原告の機械について、(1) 大きなガラスは加工できない、(2) 劇薬を使っており、手がひどく荒れたりする、(3) 悪質な会社であり、詐欺的な商法であるなどと虚偽の事実を申し向け、ことさらに前項の渡邊の訴状を見せて渡邊の電話番号を教えるなどして原告を誹謗中傷しており、その具体例は次のとおりである。

(一) 原告は、平成三年三月、大阪市の田原信義(以下「田原」という。)と代理店契約を締結したところ、田原は、被告の依頼により、平成四年二月ころから自ら原告に対してクレームを付けるとともに、被告の担当者が同行した代理店希望者に対し、右に述べたような虚偽の事実を告げて原告を誹謗中傷し、他方で被告の商品をほめることによって、原告と契約することをやめて被告と契約するように画策した。田原は、原告に対し、同年七月三一日、右事実を認めて謝罪し、以後このようなことを繰り返さないことを確約した(甲第一号証)。

(二) 原告は、平成四年三月、愛知県の藤蔵工業と代理店契約を締結したところ、同年九月、突然詐欺まがいであるとしてクレームを付けられたため、不満ではあったが、他への信用等を考慮して円満解決の方針をとり、機械代金の約七割を返還することで早期に解決した。ところが、その後、被告は、原告の藤蔵工業に対する納品書を入手し、原告の代理店やその希望者に対し、原告の商品が欠陥商品であるかのように申し向け、クレームを付けさえすれば返金にも応じるなどと吹聴した。原告は、平成五年九月、原告の社員に代理店希望者を装って被告のもとに行かせ、右事実を確認した。

(三) 被告は、平成五年一二月、原告の代理店である巽義明に対し、「原告は奈良で裁判になっている。全額ではないがかなり返金している。劇薬を使っているので体に悪く、手がひどく荒れる。大きなガラスは絶対加工できない。嘘だと思うなら原告に加工してもらいなさい。できないはずだからあなたも返金してもらいなさい。」などと電話で虚偽の事実を申し向けた。

4  被告の前項の行為は、取引社会で自由競争として許容される範囲を逸脱した違法な行為であり、原告は、これによって信用・名誉を毀損され、業務を妨害されており、その損害は少なくとも一〇〇〇万円を下らない。

5  よって、原告は、被告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、一〇〇〇万円及びこれに対する弁済期後であることの明らかな訴状送達の日の翌日である平成六年四月九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1は認める。

2  同2のうち、原告が渡邊から平成四年三月に売買代金返還等請求訴訟を提起され、和解により解決したことは認める。ただし、和解金額は、請求金額の五六パーセントに相当する四〇九万円である。

原告が右のような和解に応じたのは、自らの非を認めたからにほかならない。

3  同3のうち、被告がその営業活動に際し、代理店希望者に対し渡邊の訴状や藤倉工業に対する原告の納品書を示したことがあり、原告の商品では大きなガラスは加工できず、劇薬を使っていて手がひどく荒れたりすると説明していることは認め、その余は否認する。

被告は、渡邊や藤倉工業から原告との関係について相談を受けたことから訴状や納品書のコピーを入手したものであり、被告の右の行為は、いずれも客に原告の商品との異同について説明を求められ、事実を説明したものであって、訴状や納品書は説明の便宜として示したものである。

田原については、平成三年七月ころ、原告の機械ではうまく作れないとして依頼により希望の製品を製造したことがあり、その後機械を販売したことがあるだけである。甲第一号証については、返金を受ける代わりに原告から懇請されて応じたものにすぎないと聞いている。

被告は、原告より格段に優れた機械を廉価で販売している。

原告は、粗悪かつ危険な機械を詐欺的な営業方法で販売しており、多数の業者に損害を生じさせて業界の名誉・信用を低下させ、被告にも損害を生じさせている。

4  同4は争う。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因1(当事者)の事実は当事者間に争いがない。

なお、証人大野達夫の証言及び弁論の全趣旨によれば、インテリアガラス加工業界は比較的新しいものであり、上場企業はなく、規模としてもそれほど大きなものではないことが認められる。

二  同2のうち、原告が、渡邊から平成四年三月に売買代金返還等請求訴訟を提起され、和解により解決したことは当事者間に争いがない。右事実に甲第五号証、証人大野達雄の証言を総合すれば、原告は、平成三年一月、名古屋市の渡邊と代理店契約を締結していたところ、同年一二月、渡邊から販売した機械等についてクレームを付けられるようになり、平成四年三月には詐欺ないし不法行為を理由として売買代金の返還等を求める訴訟を提起され、訴えには不満であったが、他への信用等を考慮して円満解決の方針をとり、代金の約五割を返還することで早期に和解したことが認められる。

三  誹謗中傷について

1  同3のうち、被告がその営業活動に際し、代理店希望者に対し右の渡邊の訴状や藤倉工業に対する原告の納品書を示したことがあり、原告の機械では大きなガラスは加工できず、劇薬を使っていて手がひどく荒れたりすると説明していることは当事者間に争いがない。

2  甲第一、三三号証、証人大野達雄の証言及び弁論の全趣旨によれば、原告は、平成三年三月、田原と代理店契約を締結したが、平成四年二月ころから大きなガラスの作品が作れないとしてクレームを付けられるようになり、そのころ原告と契約しようとしていた他の代理店希望者からも、被告の社員に田原のところに連れて行かれ、被告の機械と比較しながら原告の機械は粗悪で高く、劇薬を使っているとの説明を受けたので契約をキャンセルしたいとの申出があったため、調査したところ、田原は、被告の依頼を受けて代理店希望者らに対して原告の機械は性能が悪い上に値段も高く、毒性の高い薬剤を使用しているなどと説明し、他方で被告の商品をほめることによって、原告との契約をやめて被告と契約するように画策していたことが判明したことから、原告は、同年七月三一日、田原から右の事実を認めて謝罪し、以後このようなことを繰り返さないことを確約する旨の念書(甲一)をとったことが認められる。

3  甲第一八号証及び証人大野達雄の証言によれば、原告は、平成四年三月、愛知県の藤蔵工業と代理店契約を締結したが、同年九月ころから大きなものが作れないとしてクレームを付けられたので、同証人が現地に行って実演して見せたが、藤倉工業は機械の引き取りと返金を要求し、応じなければ他の代理店にも呼びかけると脅かされたため、信用等を考慮して円満解決の方針をとり、機械代金の約七割を返還することで早期に解決したが、その後、被告から前記の渡邊の訴状や原告の藤蔵工業に対する納品書等を見せられたので原告は信用できないとして契約のキャンセルなどを申し出る人が多く出たことから、平成五年九月、原告の社員に代理店希望者を装って被告のもとに行かせたところ、被告の担当者は、原告の機械は粗悪で大きなガラスの加工ができず、代理店とのトラブルが多いと強調した上、渡邊の訴状や藤倉工業への原告の納品書を示したことが認められる。

4  甲第一九号証及び証人大野達雄の証言によれば、巽義明は、原告と被告とを比較検討した結果、平成五年一〇月一六日原告と代理店契約をしたところ、同年一二月ころ、被告の担当者の平井から、「原告は奈良で裁判になっている。全額ではないがかなり返金している。劇薬を使っているので体に悪く、手がひどく荒れる。大きなガラスは絶対加工できない。嘘だと思うなら原告に加工してもらいなさい。できないはずだからあなたも返金してもらいなさい。」などと電話で言われたことがあったことが認められる。

5  甲第二二号証、証人大野達雄の証言によれば、その他、被告が関与していると思われる右2ないし4と同様のトラブルが一〇件以上あったことが認められる。

また、甲第四一号証によれば、本訴の審理中である平成七年五月二七日、被告の代理店希望者を装った原告の社員の電話に対し、被告の社員の大山は、「原告は被告のデザインをまねしている。原告は中身のない安値の機械を売っており、被害にあった人がたくさんいる。原告の技術では細かい物はできないし、インテリアと名の付く物はできない。裁判を起こして代金を返してもらった原告の代理店は何件もある。」などと述べ、同月二七日、同様に被告を訪問した原告の関連会社の社員に対しても、「原告には大きな商品はできない。原告のやり方なら手で切るのと同じで機械を買わなくてよい。原告ができるといっている作品は他で作らせている。詐欺と一緒であり、裁判を起こされているのがたくさんある。原告の液を使うとやけどする。何十社も原告の機械を返して被告の機械を買っている。被告と契約したら裁判の資料も見せる。」などと述べて被告の機械を売り込みをしたことが認められる。

なお、右甲第四一、四二号証の証拠能力を否定すべき特段の事情は認められない。

四  被告の反論について

1  被告は、原告が渡邊と和解したのは、自らの非を認めたからにほかならないと主張する。

しかし、裁判所が和解勧告する理由には様々なものがあり、当事者がこれに応じる理由も種々あり得るのであって、単に和解に応じたことをもって自ら非を認めたものということはできず、本件では非を認めたわけではなかったことは右に述べたとおりであるから、一方的に非を認めたものと決めつけてこれを喧伝するのは自由競争として許された営業活動の範囲を逸脱するものである。

2  被告は、田原が甲第一号証の念書の作成に応じた理由について、返金を受ける代わりに原告から懇請されて応じたにすぎないと聞いているとして、右の念書の信用性を否定し、田原についてむしろ同情的な主張をしている。

しかし、右の念書には前記認定のとおり田原が被告の依頼を受けて行ったものであることが明記されているところ、これが虚偽であるとすれば、被告の信用を毀損するものとして被告から損害賠償請求を受けかねないことであるから、単なる返金を受けるための便宜ということだけでは右のような文書の作成に応じた理由として首肯し難い。被告が田原を非難せず、むしろ同情的な主張をするにとどまっていることからしても、被告の依頼によるものであることが真実であるからにほかならないというべきである。

3  被告は、原告の機械では大きなガラスは加工できず、劇薬を使っていて手がひどく荒れたりするのは事実であり、しかも、被告がそのような説明をするのは客に原告の商品との異同について説明を求められた場合のことであって、訴状や納品書も説明の便宜として示したものにすぎないから、何ら誹謗中傷にはあたらないと主張する。

しかし、甲第三、九、一三、二六ないし三〇、三九、四三号証、検甲第一ないし六五号証、乙第五、一五号証、証人大野達雄の証言及び弁論の全趣旨によれば、原告は、インテリアガラス彫刻について、昭和五〇年に代表者が関連特許を取得するなど以前から関心を持っており、昭和五六年から現在のような事業を営んでいるところ、原告の機械でも製作工程を繰り返すことによって大型のものも製作は可能であり、現に原告の代理店は大型のガラスの加工についても営業活動を行っていることが認められる。

渡邊は、陳述書(乙一一)及び証言において、原告の機械では小さなものはできるが、三尺×六尺の長方形の大きさのものは何度やってもできず、平成三年四月か五月ころ、原告の担当者の吉岡が渡邊方に来て実演して見せた際も、結局作成できなかったと述べている。しかし、証人大野達夫の証言によれば、原告との契約者には、代理店とはなったものの、技術が向上せず、販路も開拓できないために返金をねらってクレームを付けてくるものが少なくないことが認められる上に、渡邊の証言によれば、同人は有限会社渡邊工業所の代表者で建築設備業を本業としており、インテリアガラスの試作は従業員の大洞が中心であったことが認められ、また、吉岡は渡邊の希望する大きさの作品を製作したと述べており(甲三一)、その日は渡邊に飲食に誘われたことは渡邊も認めていることに照らして、渡邊の右供述は採用することができない。

その他、原告に対して同様の不満を述べる者の陳述書である乙第一二ないし一九号証、二六、二七号証についても、右の大野達夫の証言及び甲第四三、四五号証と対比して採用することができない。

また、証人西村忠丈は、原告の機械による製作を試したことがあり、大きなガラスの加工ができないわけではないが、売り物にはならないとか、商業ベースには乗らないと証言する。しかし、証人大野達夫の証言及び弁論の全趣旨によれば、インテリアガラスの製作には大型のものほど熟練を要し、この点は被告の機械であっても同様であることが認められるところ、仮に西村証人が原告の機械では思うような製作ができなかったとしても、それは同証人が被告の機械での製作には経験を有していても原告の機械での製作について原告の指導も受けておらず、その技術を有していないことの結果にすぎないというべきである。また、売り物にはならないとか商業ベースには乗らないとする点も、原告ないしその代理店が一〇年以上にわたり原告の機械ないし製作方法によって営業を行ってきたことは右に述べたとおりであって、弁論の全趣旨によれば、現在においても順調であることが認められるから、原告の機械ないし製作方法によってもその営業目的を達することができるということにほかならない。この点は、検甲号証として提出された作品に別途フッ酸処理をしたものがあり、ガラス全面に彫刻がされていないものがあることについても同様のことがいえる。したがって、原告の機械ないし製造法によっては被告の意図するような製品ができないとしても、何ら非難される理由はないというべきである。

次に、原告では劇薬を使っていて手がひどく荒れたりするという点については、乙第五号証によれば、原告の製作マニュアルには、マスク製作の際に使用する樹脂(ファインベースUV-K)の取扱い注意事項として、液が付着したまま放置すると一、二日後にはかぶれを生じ、赤い湿疹、ひどい場合は水泡となり、範囲の広い場合は火傷のような状態になるとして、作業の際には手袋の着用等を勧めており、また、作業手順として必要な樹脂の水洗いによって生じた廃液については、そのまま下水等に放流せずにドラム缶等に貯留し、天日乾燥によりある程度硬化させた上で焼却処理するよう指示していることが認められる。

しかし、右の乙第五号証の記載は、基本的には市販の洗剤、接着剤、殺虫剤等に注意事項として記載されている程度の事柄であり、少なくとも原告ないしその代理店がその製造方法で今日まで営業していることに照らしても、「劇薬」という表現は誇張であり、実際にも手荒れ以上の傷害を負ったものがいたことを認めるに足りる証拠はない。この点に関する証人渡邊の証言は、前同様の理由により採用できない。

また、被告は、右の樹脂は本来原告のような用途のものではないと主張するが、右の樹脂のカタログ(甲一二)には特徴として「サンドブラストマスキング用」と記載されており、原告のような用途が予定されているように読める上に、仮に本来は他の用途に開発されたものであっても、それをインテリアガラスの製造に応用し、需要者が継続的にこれを入手しうるように販売することは何ら不当なことではない。これに原告が固有の商品名を付することも、その利用分野における用途を明確にすることにもなり、別段不当なことではなく、たとえその本来の目的が営業上の便宜であったとしても、詐欺呼ばわりされるようなことではない。

さらに、被告が契約希望者に対して右のような説明をするのは客に原告の商品との異同について説明を求められた場合のことであって、訴状や納品書も説明の便宜として示したものにすぎないとする点も、被告は既に原告の代理店になっている者に対しても同様のことを行っており、その言辞も単なる説明にとどまるものではないことは前記認定のとおりであって、意図的なものといわざるを得ない。

4  もっとも、乙第四号証及び弁論の全趣旨によれば、原告は、かつて自社のパンフレットの会社概要欄に、資本金が真実は二一五〇万円であるにもかかわらず、八五〇〇万円と虚偽の記載していたことがあることが認められる。また、昭和六三年に雑誌「ウイッシュ・ピープル・マガジン」(乙六)に掲載された原告の代理店の株式会社オーシャン経営者の成功記事に写っている写真が、実は原告の従業員であり、本人ではないことは争いがない。前者は明らかに不当なことであり、後者も過剰な演出といわざるを得ず、これらは原告の広告の基本姿勢を示すものとして遺憾なことである。

しかし、弁論の全趣旨によれば、これらはいずれも現在は使用されていないことが認められるから、今もそのような広告をしているかのようにことさらにこれをあげつらうのは誹謗中傷にあたるというべきである。また、インテリアガラス彫刻がそれほど簡単にできるものであれば、さしたる商品価値も認められず、また、事業として成功するためには相当な販売努力が必要となるはずであり、現に被告の客の四割はやめてしまっているにもかかわらず(証人西村忠丈)、乙第一号証によれば、被告も、雑誌「アサヒグラフ」の広告に「技術不要」「堅実な利益確保!」「こんなに広い販売先・需要先!」などとうたっていることが認められ、原告を詐欺的というのであれば被告も同列であり、原告を非難する資格はないというべきである。

5  その他、被告は、原告の製造方法を非難するだけで、被告の製造方法の優位性については何も具体的に明らかにしていない。サンドブラストの問題ではないことは認めながら、大型のサンドブラストを自社製造していること以外何も具体的には主張、立証がない。

甲第五号証、乙第二号証及び弁論の全趣旨によれば、原告の商品も被告の商品も、一式数百万円もする高価な商品であるから、客としてもその良否につき当然相当な検討をするはずであり、仮に被告の商品が被告の主張どおり原告よりも格段にすぐれたものであれば、被告がことさらに原告の商品を非難攻撃するまでもなく、この一〇年の間に被告の業績は飛躍的に伸び(ただし、需要があることが前提である。)、原告の事業は衰退の一途をたどったはずであるが、そのような事実を認めるに足りる証拠はない。

五  以上によれば、三に認定した被告の行為は、原告に対する誹謗中傷であり、自由競争として許容される範囲を逸脱し、原告の信用を毀損し、その業務を妨害するものといわざるを得ないから、不法行為として、被告は原告の損害を賠償する責任があるというべきである。

原告は、損害について具体的な主張、立証をしていないが、三に認定した被告の行為の態様その他本件に現れた一切の事情を総合すれば、原告に損害がないということはできず、前述のとおり原告の業績が今も順調であることを考慮しても、一〇〇万円は下らないものと認めるのが相当である。

六  よって、本訴請求は、金一〇〇万円及びこれに対する弁済期後であることの明らかな訴状送達の日の翌日である平成六年四月九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 佐藤道明)

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